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資料を放り込むと30秒の動画が出てくる — Alibaba、Wan3.0を正式公開。1.5兆円を調達した翌日に、看板だった「オープンウェイト」を手放した

2026年8月25日(更新 2026年10月17日) MBI経済ニュース編集部

資料を放り込むと30秒の動画が出てくる — Alibaba、Wan3.0を正式公開。1.5兆円を調達した翌日に、看板だった「オープンウェイト」を手放した

Alibaba Cloudが2026年8月24日、動画生成モデルWan3.0を正式公開。PDF・PowerPoint・スプレッドシート・Webページを直接入力に取り、最長30秒・最大1080pの動画を生成する。価格は1080pで1秒0.20ドル(30秒で約900円)とGoogle Veo 3.1標準の半額水準。前日にはHK$800億(約1兆5,000億円)の増資が価格決定され、純手取りの100%をAIインフラに投じると明記された。一方でWanシリーズの看板だったオープンウェイト公開は取りやめ、申請制のクローズド提供へ転換している。

8月24日 Wan3.0 正式公開

8月24日、Alibaba が「資料を動画にするAI」を正式公開した

2026年8月24日(月)、Alibaba Cloud は動画生成モデル Wan3.0 を正式に公開しました。Reuters が北京発で報じています。8月6日から公開ベータとして限定提供されていたものが、この日、正式版として提供範囲を広げた形です。

最大の特徴は、入力に「作文したプロンプト」だけを求めない点にあります。Alibaba Cloud が WeChat 上の告知で示したところによれば、Wan3.0 はドキュメント、スプレッドシート、スライド、Webページを入力として受け取り、そこから最長30秒の動画を生成します。つまり、手元にある提案書や決算資料が、そのまま動画の素材になるということです。

そしてこの発表には、もうひとつの文脈があります。前日の8月23日、Alibaba はHK$800億(約102億ドル、日本円でおよそ1兆5,000億円)の新株プレースメントの価格決定を発表していました。香港上場企業として過去最大の primary follow-on offering です。巨額の資金調達を発表した翌日に、その資金が向かう先を示す製品を出した——そういう順番になっています。

15秒から30秒へ

15秒から30秒へ — 尺が2倍になった意味

Wan3.0 は一度の生成で最長30秒のクリップを作ります。前世代の Wan2.7-Video は15秒が上限でしたから、ちょうど2倍です。解像度は最大1080p。TechNode Global の報道によれば、この30秒という長さは、多くの主流モデルが数秒から15秒程度にとどまるなかで頭ひとつ抜けた水準にあたります。

尺が2倍になることの実務的な意味は「長い動画が作れる」ことではありません。カットを割らずに、複雑なカメラワークを1本の連続したショットとして通せることです。これまでのAI動画は、数秒ごとに生成して繋ぐしかなく、繋ぎ目でキャラクターの顔や服装が変わる「ドリフト」が最大の弱点でした。

Alibaba はこの点について、キャラクターの細部、空間レイアウト、モーションの一貫性を動画を通して維持すると説明しています。さらに、顔の微表情を音声と同期させること、多言語の音声出力、そしてソフトウェアのUIやモーショングラフィックスを崩さずに描画することを改善点として挙げています。最後の項目は、プロダクト紹介動画を作る立場からは見逃せない主張です。

ただし注意点があります。Wan3.0 には現時点で独立した第三者ベンチマークが存在しません。ここまでの性能主張は、すべてベンダー自身の公表値です。

資料を入れる 入力の革命

「資料を入れる」— 変わったのは出力ではなく入力

Wan3.0 が対応する入力は、テキスト、画像、音声、動画、Webページ、そして PDF や PowerPoint といったドキュメントです。TechNode Global はここにスプレッドシートも含めて報じています。

これは地味に見えて、動画制作の工程表を書き換える変更です。従来の生成AI動画は「うまいプロンプトを書く」ことが入口でした。つまり、動画を作るために、動画用の入力を新しく用意する必要があった。Wan3.0 は、すでに社内にある成果物をそのまま入口にするという設計になっています。

企業のマーケティング部門や広報部門にとって、これは「AIを使うために準備するもの」が消えるということです。四半期のレポートPDF、営業の提案スライド、月次の売上スプレッドシート、自社のランディングページ——それらは、すでに社内にあります。

Alibaba によれば、8月6日の公開ベータ以降、Wan3.0 はすでに短編ドラマや映画の制作、広告・マーケティング、観光プロモーション、ミュージックビデオ制作で使われています。実験段階の話ではなく、すでに制作の現場に入っている、という主張です。

1秒0.20ドル 価格比較

1秒0.20ドル — 価格が語っている本当の狙い

Dataconomy が伝える Wan3.0 の価格は、480pで1秒0.05ドル、720pで0.10ドル、1080pで0.20ドル。1080pなら1分あたり12ドルという計算になります。

比較対象として同記事が挙げているのが Google の Veo 3.1 で、標準サービスは1秒0.40ドル。つまり Wan3.0 は最高画質でも、その半額の水準に置かれています。

この数字を日本の制作現場の感覚に翻訳すると、意味がはっきりします。1080p・30秒のクリップは 6.00ドル、日本円でおよそ900円。実写やモーショングラフィックスの外注が1本あたり数万円から数十万円という相場であることを考えると、桁が2つから3つ違います。

ここで重要なのは「安い動画が作れる」ことではなく、「本数を打てる」ことが初めて経済的に成立するという点です。広告クリエイティブの世界では、当たりを引くまでの試行回数が成果を決めます。1本900円なら、訴求軸×トーン×尺のマトリクスを丸ごと回して、CTRとCVRで勝ち筋を先に特定してから本制作に入る、という順序が現実的になります。

そしてこの価格設定は、競合への圧力でもあります。動画生成の単価は、この日を境にさらに下がる方向に力が働いています。

HK$800億の増資

前日の1.5兆円 — 増資の中身をSEC提出書類で読む

2026年8月23日、Alibaba Group Holding Limited は米SECに Form 6-K を提出し、香港での新株プレースメントの価格決定を発表しました。数字は以下のとおりです。

  • 調達規模:HK$800億(約102億ドル/およそ1兆5,000億円)
  • 発行株数:710,000,000株(新規発行の普通株)
  • 発行価格:1株あたり HK$112.70
  • 決済予定日:2026年8月26日

そして使途について、同社は提出書類にこう書いています。「本エクイティ・プレースメントは、当社のグローバルなAIリーダーシップを拡張するために実施される。Alibaba は純手取り金の100%を、AIインフラの拡張・強化を含むフルスタックAI能力への投資に充当する意向である」。

調達額の一部ではなく、100%です。Reuters はこの案件を、香港上場企業として過去最大の primary follow-on offeringだと報じています。

資金調達の翌日に製品を出す、という順序には意味があります。投資家に対して「集めた金は、こういう製品になって返ってくる」と示す動きだからです。

クラウドAI+45% 純利益-75% 設備投資676.8億元

純利益75%減 — アリババが払っている代償

この積極性には、はっきりとした値札がついています。Reuters は、Alibaba が先週発表した四半期決算で純利益が前年同期比75%減となったこと、その理由がAI関連の設備投資の急増にあることを伝えています。

Dataconomy が伝える2026年6月期の内訳を並べると、構図がよく見えます。

  • クラウド・AI収入:484.4億元(前年同期比 +45%)
  • 四半期の純利益:前年同期比 −75%
  • 四半期の設備投資:676.8億元

売っている側の商品は伸びている。にもかかわらず利益が消えているのは、その商品を売るための設備に、利益を上回る金額を注ぎ込んでいるからです。同社は2025年初に、3年で3,800億元をAIインフラに投じると表明していました。

ここから読み取れることは、投資判断として2つあります。ひとつは、Wan3.0 の価格は「原価に見合った価格」ではなく「シェアを取るための価格」である可能性が高いこと。もうひとつは、その価格が将来にわたって維持される保証はどこにもない、ということです。

2026年8月15日に DeepSeek が API 価格へピーク/オフピーク制を導入したように、AI推論の値付けは、すでに「一度決めたら動かないもの」ではなくなっています。

オープンウェイトから申請制へ

看板だった「オープンウェイト」を手放した日

この発表でもっとも見落とされやすく、そしてもっとも構造的な変化がここです。Wan3.0 は、モデルの重みを公開しません。

Wan シリーズは2023年7月の登場以来、オープンソース/オープンウェイト公開を看板にしてきました。Alibaba はそのオープン戦略で開発者の支持を積み上げてきた企業です。Qwen ファミリーの評判も、そこに支えられてきました。

その Wan3.0 は、Alibaba Cloud の Model Studio と Qwen Cloud での申請制提供に切り替わりました。消費者向けの wan.video も、会員制のプラットフォームとして計画されています。Dataconomy はこの転換を、AI能力の収益化に軸足を移した動きだと位置づけています。

実務的な帰結は明確です。ローカル実行も、自社データでのファインチューニングも、オンプレミス配備も選べません。安さの裏側で、乗り換えコストが上がっている。これがこの発表の、もうひとつの顔です。

ここには皮肉な対照もあります。同じ週、NVIDIA は米国発のオープンウェイト・モデルを育てるために Poolside へ約60億ドルを投じる契約を結んだと報じられました。中国のオープン戦略の旗手が閉じ、米国のハードウェア企業が開こうとしている——旗の持ち手が入れ替わりつつあります。

投資と生活への影響

投資と生活への影響 — どこが動くのか

投資の目線で。まず、動画生成の単価は「下がり続ける前提」で見るべき局面に入りました。1秒0.20ドルという水準が、利益を75%削りながら出されているという事実は、この市場がまだ価格競争の途中にあることを示しています。動画生成そのものを主商品にしている事業者にとっては、粗利が圧縮される方向の材料です。一方で、生成そのものではなく企画・編集・権利処理・効果測定といった前後の工程を握る事業者には、扱う本数が増えるぶん追い風になります。

広告と制作の現場で。1本900円という単価は、A/Bテストの設計思想を変えます。これまでは「限られた本数をどう当てるか」でしたが、これからは「数を打ってから当たりを本制作する」に移ります。ただし中国発モデルである以上、日本語ナレーションの品質、商標や肖像の権利処理、広告媒体側の生成AI表記ルールは、案件ごとに個別確認が必要です。

普段の生活で。観光プロモーション、短編ドラマ、ミュージックビデオ——Alibaba 自身が挙げたこれらの領域は、私たちが日常的に目にする映像です。これから接する動画のうち、企画も撮影も人手を経ていないものの割合は、静かに増えていきます。「これは本当に撮影されたものか」という問いを、視聴者側も持っておく必要が出てきます。

そして開発の目線で。重みが非公開になった以上、生成レイヤーは差し替え可能な形で設計しておくのが安全です。Veo、Sora、Wan を切り替えられるアダプタとして実装し、コスト監視を最初から組み込んでおく。単価が動く前提で作る、という設計判断が要ります。

まとめ

2026年8月24日、Alibaba Cloud が動画生成モデル Wan3.0 を正式公開しました。押さえるべき点は3つです。

  1. 入力が変わった。PDF・PowerPoint・スプレッドシート・Webページを直接受け取り、最長30秒・最大1080pの動画を生成する。動画を作るために動画用の素材を新規に用意する工程が、原理的に不要になった。
  2. 価格が変わった。1080pで1秒0.20ドル、30秒でおよそ900円。Google Veo 3.1 標準の半額水準。広告クリエイティブのA/Bテストは「絞る」から「数を打つ」へ移る。
  3. 提供形態が変わった。Wan シリーズの看板だったオープンウェイト公開をやめ、Model Studio / Qwen Cloud の申請制へ。安さの裏でベンダーロックが進んでいる。

そして背景には、前日に価格決定された HK$800億(約1兆5,000億円)の増資と、純利益75%減という数字があります。この価格は、利益を削って出されている価格です。だからこそ、動画制作のコスト前提はこれから何度も書き換わります。いま組むべきなのは「安いモデルへの依存」ではなく「差し替えられる設計」です。

出典・参考情報

※ Wan3.0 の性能に関する記述は現時点でベンダー公表値であり、独立した第三者ベンチマークは実施されていません。価格・提供条件は変更される可能性があります。

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