週刊国際情勢レポート
民間技術が戦場を支配:Starlink遮断・ネット封鎖・AI ドローン|会社のインフラも兵器になる時代【週刊】国際情勢レポート|2026年1月31日〜2月6日

2026年1月31日〜2月6日の国際情勢を経営者向けに解説。Starlink遮断によるロシア軍通信壊滅、NEW START条約失効、イラン核交渉再開、米中首脳電話会談、2月8日の日本・タイ同時総選挙など今週の重要ニュースと経営への影響をまとめました。
2026年1月31日〜2月6日——今週の国際情勢は、テクノロジーが戦争と国家権力のあり方を根本から変えつつある現実を鮮明にした1週間だった。ウクライナでは、SpaceXがロシア軍の不正Starlink端末を一斉遮断し、前線のロシア軍通信が「壊滅的」と報じられた。イランでは、1月の大規模抗議に対し、史上最大規模のインターネット遮断が続く。スーダンでは、エジプト経由のトルコ製ドローンが内戦の帰趨を左右している。一方、2月5日にはNEW START条約が失効し、1972年以来初めて米露の核軍備を制限する法的枠組みが消滅した。アメリカとイランはオマーンで核交渉を再開、トランプ大統領と習近平国家主席は電話会談を実施した。翌2月8日には日本とタイで同時に総選挙が行われる。経営者にとっては、テクノロジー・インフラが地政学リスクの「震源地」となる新時代への備えが問われる1週間となった。
今週の経営リスクサマリー
今週のタイムライン
国際情勢・地政学
今週の焦点:テクノロジーが変える戦争と権力
今週の国際情勢を貫くキーワードは「テクノロジーによる戦争と権力の変容」だ。ウクライナでは、民間企業SpaceXの衛星インターネット「Starlink」の遮断が、ロシア軍の前線通信を「壊滅的」に混乱させた。イランでは、政府が1月8日以降、史上最大規模のインターネット遮断を継続し、抗議活動の情報統制を図っている。スーダンでは、エジプト南部の基地からトルコ製「アクンジュ」大型ドローンがRSF拠点を爆撃していることが明らかになった。これらの事例は、民間技術インフラが地政学リスクの「震源地」となり、企業のサプライチェーンやデジタル基盤が国際紛争の影響を直接受ける時代に入ったことを示している。
1. ウクライナ:Starlink遮断とアブダビ和平協議
2月4〜5日、アラブ首長国連邦のアブダビで、アメリカ・ロシア・ウクライナの3者による和平協議の第2ラウンドが開催された。画期的な停戦合意には至らなかったものの、2024年10月以来となる捕虜交換が実現し、双方から157人の捕虜が帰還した。アメリカのウィトコフ特使は「持続的な外交的関与が具体的な成果を生んでいる」と評価し、ゼレンスキー大統領も「近い将来、次のラウンドを開催する」と表明した。注目すべきは、同じアブダビでNEW START条約の非公式遵守についても米露間で協議が行われた点だ。
一方、戦場では2つの重大な展開があった。第1に、SpaceXがロシア軍の不正なStarlink端末を前線全域で遮断した。ウクライナのフェドロフ国防相とSpaceXが共同で、ウクライナ国内の正規端末を「ホワイトリスト」に登録し、未登録端末を一斉ブロックしたものだ。ロシア軍事ブロガーらは「前線は事実上麻痺した」「突撃作戦が多くの地域で停止」と報告。ロシア軍にはStarlinkに代わる高速通信手段がなく、ドローン運用や部隊間の指揮統制に深刻な支障が出ている。第2に、民間人への攻撃が続いた。2月1日にはドニプロ地方で鉱山労働者のバスがドローン攻撃を受け12人が死亡、2月5日にはドルジキフカの市場にクラスター弾が着弾し7人が死亡した。
ゼレンスキー大統領は今週、開戦以来のウクライナ軍戦死者が5万5,000人であると初めて公式に開示した。CSIS(戦略国際問題研究所)のデータでは、ロシア側の死傷者は約120万人、ウクライナ側は50〜60万人と推計されており、2026年春までに合計200万人に達する可能性がある。キーウ市内ではダルニツァ火力発電所への攻撃により、1,100棟の建物が暖房を失っている状態が続き、完全復旧には2カ月を要する見通しだ。
💼 経営インパクト
Starlink遮断は、衛星通信インフラが「一企業の判断」で戦局を左右しうることを示した。企業のBCP(事業継続計画)においても、通信インフラの地政学リスクを再評価する必要がある。また、ウクライナのエネルギーインフラ攻撃は、欧州向けエネルギー供給と穀物輸出に影響し、エネルギーコストと食料価格の上昇圧力となる。
2. NEW START条約失効:50年ぶりの核軍備管理空白
2月5日、アメリカとロシアの間の最後の核軍備管理条約であるNEW START条約が正式に失効した。国連のグテーレス事務総長は「半世紀以上ぶりに、戦略核兵器に法的な制限のない世界に直面している」と声明を発表した。同条約は、両国の配備済み戦略核弾頭を各1,550発に制限し、検証メカニズムを設けていた。
ロシアのプーチン大統領は2025年9月、失効後も1年間は条約の数的制限を自主的に遵守する用意があると提案していた。トランプ大統領は「良いアイデアだ」と述べたが、正式な回答はなかった。Axiosの報道によると、アブダビのウクライナ和平協議の場で、ウィトコフ特使とクシュナー氏がロシア側とNEW STARTの非公式遵守について交渉し、合意に近づいているという。ただし、最終的な承認は両国大統領の決裁が必要とされ、法的拘束力はない。
トランプ大統領はTruth Socialで「NEW STARTは悪い交渉の産物だ。延長ではなく、新しく改良された条約を交渉すべき」と投稿。ルビオ国務長官は、中国を含む新たな3カ国間条約の必要性を主張した。専門家は、直ちに軍拡競争が始まるわけではないが、数年以内に両国の配備核弾頭が倍増する可能性を指摘している。
💼 経営インパクト
核軍備管理の空白は、中長期的な地政学リスクプレミアムの上昇要因となる。防衛関連銘柄への投資資金流入が加速する一方、核リスクの高まりは金価格の下支え要因となりうる。また、米露の戦略的不透明性の増大は、欧州の安全保障コスト増大を通じて、欧州経済全体に影響する。
3. イラン:抗議の傷痕と核交渉再開
2月6日、アメリカとイランはオマーンの首都マスカットで、2025年6月の12日間戦争以来初となる核交渉を実施した。アメリカ側はウィトコフ中東特使、クシュナー氏に加え、初めて中東軍(CENTCOM)のブラッド・クーパー司令官が制服姿で同席した。アブラハム・リンカーン空母打撃群がイラン沖に展開する中での交渉であり、軍事的圧力と外交を並行させるアメリカの姿勢が鮮明となった。
イランのアラーグチー外相は、協議は「非常に前向きな雰囲気」で行われたと述べつつ、「脅迫なき冷静な環境」での交渉継続を求めた。イラン側は議題を核問題に限定することを主張し、アメリカが求める弾道ミサイルや人権問題の包括的な議論を拒否した。アメリカは「核能力ゼロ」を要求しており、両者の溝は依然として深い。次回の協議は「数日以内」に行われる見通しだ。
交渉の背景には、イラン国内の深刻な人道危機がある。1月に始まった大規模抗議の弾圧で、人権活動家通信社(HRANA)は6,842人の死者(うち抗議参加者6,425人)を確認。5万1,000人以上が逮捕された。インターネット遮断は1月8日以降、イラン史上最大規模のまま継続している。通貨リアルは1ドル=150万リアルの史上最安値を記録。欧州連合(EU)は革命防衛隊(IRGC)をテロ組織に指定(1月29日)、イギリスも制裁パッケージを発動した(2月2日)。
💼 経営インパクト
トランプ大統領が「イランと取引する国に25%関税」を警告しており、イランとの二次制裁リスクが拡大している。ホルムズ海峡では交渉直前にイラン軍ドローン撃墜とアメリカ船舶拿捕未遂が発生しており、原油輸送ルートの緊張は継続。エネルギー調達における中東リスクの再評価が必要だ。
4. 米中関係:トランプ・習近平電話会談と台湾問題
2月4日、トランプ大統領と習近平国家主席が、昨年11月以来となる電話会談を行った。議題は多岐にわたり、貿易問題(大豆輸入を2,000万トンから2,500万トンに増加)、台湾問題、イラン、ウクライナ、エネルギー協力が話し合われた。トランプ大統領は2026年4月の訪中を計画している。
習近平主席は、台湾問題を「最も重要な問題」と位置づけ、アメリカに対し武器売却を「慎重に扱う」よう求めた。2025年12月にアメリカは台湾に対し111億5,000万ドル(約1兆7,000億円)規模の武器売却を承認しており、これは過去最大級の規模だ。台湾側は米台関係を「盤石」と表明している。
同日、習近平主席はプーチン大統領とも電話会談を行い、「激動する国際環境」における中露連携の強化を確認した。また、トランプ政権は重要鉱物のサプライチェーン再編に向けた閣僚級会合を招集し、中国依存からの脱却を加速させている。
💼 経営インパクト
米中首脳間の対話継続は短期的な安心材料だが、台湾武器売却をめぐる中国の反発は、日本企業の対中ビジネスに波及するリスクがある。重要鉱物のサプライチェーン再編は、半導体・EV関連企業のコスト構造に直結する中長期的テーマだ。
5. 日本:高市首相の衆議院選挙(2月8日)
2月8日、高市早苗首相が就任わずか3カ月で踏み切った衆議院解散総選挙の投開票が行われる。日経新聞の世論調査では、自民党と日本維新の会の連立与党が465議席中300議席以上を獲得する見通しで、高市首相の「過半数を取れなければ辞任する」という賭けは成功する公算が大きい。
高市首相の支持率は65〜83%と、近年の首相としては異例の高さを維持している。若年層へのSNS戦略が奏功し、「サナちゃん」の愛称で親しまれるほどの人気を獲得。1月の韓国・李在明大統領訪日時にはK-POPを一緒に歌う動画が拡散された。政策面では、防衛費のGDP比2%早期達成(当初目標の2027年度から前倒し)、2026年度防衛予算は過去最高の9兆円(前年比3.8%増)、食料品への消費税軽減、防衛装備品輸出規制の緩和を掲げている。
野党は、立憲民主党と公明党が合流した「中道改革連合」が最大勢力だが、172議席から大幅に伸長するのは困難な情勢だ。トランプ大統領はTruth Socialで高市首相と連立を「完全に支持する」と表明し、3月19日の会談を予定している。
💼 経営インパクト
高市政権の大勝が実現すれば、積極財政路線が本格化する。「高市トレード」として日経平均は53,818円まで上昇済みだが、円安・長期金利上昇(30年債利回り3.88%の過去最高)への警戒も必要。防衛関連企業にとっては追い風だが、日銀の利上げ判断が複雑化し、為替と金利の不確実性が高まる。
6. タイ総選挙:三つ巴の権力闘争
日本と同じ2月8日、タイでも総選挙が実施される。アヌティン・チャーンウィラクン暫定首相率いるプームジャイタイ党(保守・王室派)、革新系の国民党(前進党の後継)、タクシン元首相一族のプアタイ党の三つ巴の争いだ。同時に、2017年軍事政権下で制定された憲法の改正の是非を問う国民投票も行われる。
世論調査では国民党がリードしているが、単独過半数は困難で、連立交渉が焦点となる。タイは3年間で3人の首相が交代するという政治的混乱が続いており、カンボジアとの国境紛争(149人死亡)も選挙に影響を与えている。軍・司法の保守的エスタブリッシュメントと、若年層を中心とする改革派の対立という構図は、今回の選挙でも継続している。
💼 経営インパクト
タイは日本企業にとって主要な生産拠点であり、選挙結果は投資環境に直結する。保守派勝利なら現状維持路線だが、改革派が政権に参画した場合、外資規制や労働政策の見直しが行われる可能性がある。カンボジアとの国境紛争の行方も、タイ東部の工業団地への物流リスクとして注視が必要だ。
7. 東南アジア:ASEAN議長国フィリピンの南シナ海戦略
2026年のASEAN議長国に就任したフィリピンは、南シナ海(みなみシナかい)の行動規範(CoC)策定を最優先課題に掲げている。セブで開催されたASEAN外相会議では、海洋安全保障が主要議題として設定され、CoC交渉のための月次ワーキンググループ会合が計画された。フィリピンはまた、カナダとのSOVFA(地位協定)を締結し、インド太平洋地域で初の同種の協定となった。
ミャンマーでは軍事政権が段階的な選挙を実施中だが、2月3日にロシアとミャンマーの軍事同盟が発表された。東ティモールが2025年末にASEANの11番目の正式加盟国となり、マレーシアは2026年末までにデータセンター容量を2,100メガワット(現在の2倍)に拡大する計画を発表している。
💼 経営インパクト
南シナ海の行動規範交渉の進展は、シーレーン安全保障に直結する。日本の輸入の約8割が通過する同海域の安定化は、物流コストとサプライチェーンリスクの低減に不可欠だ。マレーシアのデータセンター拡張は、東南アジアのデジタルインフラ投資機会として注目される。
8. スーダン内戦:人道危機の深刻化とドローン戦争
スーダン内戦は開始から3年目に近づき、人道危機は深刻の度を増している。2月5日、北ダルフールの子どもの53%が急性栄養失調であることが判明。推定40万人が2023年4月の開戦以来死亡し、1,150万人が避難を余儀なくされている(うち400万人以上が近隣国へ)。即応支援部隊(RSF)は2月5日に南コルドファンの病院で22人を殺害した。
軍事面では、ニューヨーク・タイムズの調査報道により、エジプト南部の基地からトルコ製「アクンジュ」大型ドローンがRSF拠点を爆撃していることが明らかになった。国家間の代理戦争の様相が強まっている。スーダン軍(SAF)はカドゥグリを奪還してRSFの包囲を突破した。一方、トランプ政権は2月4日に「和平へのロードマップ」を発表したが、外交官の間では懐疑的な見方が多い。
💼 経営インパクト
スーダン内戦の長期化は、紅海(こうかい)沿岸の安全保障に影響する。スエズ運河に至る航路上の不安定化は、アジア〜欧州間の物流コスト上昇要因となりうる。エジプトの軍事関与の拡大は、中東・北アフリカ地域のパワーバランスの変動シグナルとして注視が必要だ。
9. コンゴ(DRC):重要鉱物争奪の新局面
コンゴ民主共和国(DRC)では、和平努力が続く中、資源争奪の新たな局面が浮上した。2月3日、アメリカの企業Orionとアメリカ国際開発金融公社(DFC)が、グレンコアが保有するDRC国内の銅・コバルト鉱山資産について、数十億ドル規模の株式取得で予備合意に達したと報じられた。
M23反政府勢力はアメリカの圧力を受けて1月17日にウビラから撤退したが、ヒューマン・ライツ・ウォッチは「停戦がほとんど効果をあげていない」と指摘。M23は依然として広大な領土を支配している。1月17日には、アフリカ連合(AU)の仲介者であるトーゴのニャシンベ大統領がロメで会議を主催し、アフリカ主導の調停強化を図った。
💼 経営インパクト
DRCは世界のコバルト生産の約70%を占め、EV用バッテリーの重要原料だ。アメリカ企業による鉱山資産の取得は、トランプ政権の重要鉱物サプライチェーン戦略の一環であり、中国依存からの脱却を加速させる。EV・半導体関連企業はコバルト調達ルートの多元化を検討する好機だ。
10. ベネズエラ危機とアフリカ諸国の反応
ベネズエラ政治危機をめぐり、アフリカ諸国から新たな反応が出ている。アフリカ連合、ガーナ、南アフリカ、マリ、チャド、アンゴラ、ニジェールなどが、アメリカの対ベネズエラ行動を「主権侵害」として非難する声明を発表した。これは、グローバルサウス諸国がアメリカの介入主義に対して結束する動きの一端であり、今後の国際秩序の多極化を示唆する展開として注目される。
💼 経営インパクト
グローバルサウス諸国のアメリカに対する批判の結束は、アメリカの制裁・介入政策の実効性を低下させる可能性がある。新興国市場への投資判断において、こうした地政学的な陣営形成の動向を考慮する必要性が高まっている。
来週の注目ポイント
来週の重要イベント
特に注目:北朝鮮第9回党大会——5年ぶりとなる党大会では、核・通常兵器の並進開発路線の公式化、韓国を「敵対的2国家」と位置づける枠組みの確定、さらに金正恩委員長が「朝鮮民主主義人民共和国大統領」の称号を採用する可能性が指摘されている。1月27日には短距離弾道ミサイルの発射実験(射程350キロメートル)が実施され、2025年12月には8,700トン級の原子力潜水艦の視察が行われた。衛星画像では美林(ミリム)訓練場でパレードのリハーサルが確認されており、大規模な軍事パレードの実施が見込まれる。
来週の注目シナリオ
参考情報源
Reuters、AP通信、CNN、BBC、Al Jazeera、Bloomberg、The Wall Street Journal、Washington Post、New York Times、NPR、Financial Times、Foreign Policy、Axios、CNBC、Kyiv Independent、The Moscow Times、Arms Control Association、CSIS、Council on Foreign Relations、国連事務総長声明、NHK、日本経済新聞、Nippon.com