週刊国際情勢レポート

ホルムズ封鎖14日目、原油98ドル・円安159円・ガソリン+32円——停戦交渉の「相手が存在しない」構造を解説【週刊国際情勢 3/8-3/14】

2026年3月13日(更新 2026年10月3日) MBI経済ニュース編集部

2026年3月8日〜13日の国際情勢を経営者向けに解説。米・イスラエルによるイラン攻撃13日目、ホルムズ海峡封鎖によるエネルギー危機と国内ガソリン急騰、ウクライナ和平の宙吊りなど今週の重要ニュースと経営への影響をまとめました。

2026年3月8日〜14日、国際情勢は「オペレーション・エピック・フューリー」——アメリカとイスラエルによるイラン攻撃——という単一の震源から波紋を広げ続けている。2月28日の奇襲攻撃から約2週間、累計死者は2,000人を超え、ホルムズ海峡の事実上の封鎖は解除されない。週末にはイランが新最高指導者モジュタバー・ハーメネイーの就任後初声明で「ホルムズ封鎖を戦争手段として確実に続ける」と宣言、WTIは一時98ドル台と再び100ドルに迫った。トランプ大統領はイランの原油積み出し拠点カーグ島を「完全破壊」しつつ「石油インフラは破壊しない」と牽制——しかしホルムズ妨害が続けば石油インフラ攻撃も辞さない姿勢も示した。日本国内ではガソリンが1日で32円急騰し、石炭・電力・農業・食品まで連鎖的に打撃を受けている。ウクライナ和平協議の宙吊り、韓国市場の急落、革命防衛隊によるテックインフラ攻撃警告——本レポートでは、この「全方位地政学リスク」が経営判断・投資判断に何をもたらすかを解説する。

今週の経営リスクサマリー

リスク項目 今週の状況 影響度
エネルギーコスト WTI一時98ドル台・ブレント100ドル突破。国内ガソリン1日で32円急騰。石炭も2014年12月以来の高値 高
海上輸送リスク ホルムズ海峡事実上封鎖。11日だけで5隻攻撃。商船三井所有船含む 高
テック・デジタルインフラリスク 革命防衛隊がグーグル・NVIDIA等7社29拠点を攻撃標的に公開。金融機関も警告対象 高
調達・サプライチェーン 中国がレアアース輸出禁止。肥料原料・尿素が前月比50%超上昇 高
為替・金融市場 ドル円一時159円台。日経平均一時1,200円安。株安・債券安・円安のトリプル安 高
通商リスク 米Section 301関税調査発動(日本・中国・EU等17カ国対象) 中
地政学的不確実性 ウクライナ和平協議宙吊り。北朝鮮の動向が不透明化 中

今週のタイムライン

日付 地域 主要イベント
3月8日(日) 中東 イランが新最高指導者にモジュタバー・ハーメネイーを選出。王毅外相が全人代記者会見で「即時停戦」を要求
3月9日(月) 複数地域 米韓合同軍事演習「フリーダムシールド」開始(〜19日)。ロシアが450機のドローンでウクライナ12地域を攻撃
3月10日(火) 中東・韓国 ヘズボラ・イランが50以上の標的に5時間集中攻撃。ペルシャ湾でタンカー2隻攻撃(乗員1名死亡)。韓国KOSPI週間で最大12%下落
3月11日(水) 中東・日本 米CENTCOMがイラン国内6,000目標爆撃を発表。IEAが史上最大の4億バレル協調放出を決定。ホルムズ海峡周辺で5隻(商船三井所有船含む)が攻撃を受ける
3月12日(木) 日本・中東 日本のガソリン価格が1日で32円急騰(189円/ℓ)。WTI一時95ドル台、ブレント100ドル突破。日経平均終値572円安(54,452円)。ドル円一時159円23銭。米軍の誤爆でイラン小学校を攻撃(子ども168人死亡)、国際的非難。累計死者数2,000人超
3月13日(金) 中東・通商・日本 イラン新最高指導者モジュタバー師が初声明——ホルムズ封鎖「確実に続ける」と宣言。WTI一時98ドル台。ドル円一時159円台後半(約1年8ヶ月ぶりの円安水準)。日経平均一時1,100円超下落。米財務省がロシア産原油30日間購入を一時容認(制裁緩和)。革命防衛隊がグーグル・NVIDIA等テック7社29拠点を攻撃標的リストに公開。米Section 301関税調査が本格化
3月14日(土) 中東 トランプ大統領がカーグ島(イランの原油積み出し拠点)軍事目標を攻撃・「完全に破壊した」と発表。「石油インフラは破壊しなかった」としながらもホルムズ妨害継続なら石油インフラ攻撃を辞さない姿勢を表明

中東情勢

今週の焦点

2月28日に始まった米・イスラエルによるイラン攻撃「オペレーション・エピック・フューリー」は13日目を迎え、戦争の性格が「電撃戦」から「消耗戦」に移行しつつある。ホルムズ海峡の封鎖が続く中、世界のエネルギー市場は史上最大の供給途絶局面に入り、IEAの緊急備蓄放出も価格上昇を抑えられていない。イラン新指導者が「停戦の条件」を提示したことで出口の輪郭がわずかに見え始める一方、アメリカとイスラエルの温度差が拡大し、終結のシナリオはいまだ不透明だ。

1. 消耗戦の構図——シャヘドと経費爆弾

イラン革命防衛隊の攻撃の主軸となっているのが、国産攻撃ドローン「シャヘド」だ。飛行距離2,000キロメートルに及ぶこの無人機は、地下トンネルに数万機が保管されているとされ、製造コストは1機あたり約3万5,000ドル(約550万円)。対するアメリカの迎撃ミサイル「パトリオット」は1発400万ドル(約6億円)——その差は実に100倍以上だ。ロイター通信によると、作戦開始から最初の2日間だけでアメリカは56億ドル相当の軍需品を消費したとされ、「安価な飽和攻撃を高価なミサイルで迎撃する」という非対称なコスト構造がアメリカを悩ませている。アメリカはAIを活用した安価な迎撃ドローンの調達に乗り出しているが、専門家は「この戦い方を想定していなかった、対応はまだ途上」と分析している。

💼 経営インパクト

ドローン・防衛AI・迎撃システム関連企業への投資機会が拡大する一方、紛争の長期化リスクが顕在化。「戦争が終わる」という前提でエネルギー・輸送コストを計画している企業は、シナリオ見直しが急務。

2. モジュタバー師「初声明」の実態——本人不在・IRGC起草疑惑という深刻な問い

3月12日、イランは新最高指導者モジュタバー・ハーメネイーの「初声明」を国営テレビで公表した。しかしその形式は、国際社会に深刻な疑念を植え付けるものだった。本人は一切登場せず、静止画像1枚を背景に、テレビのアナウンサーが声明文を代読する——就任から2週間近く経った今も、モジュタバーの映像も音声も、一切公開されていない。

それだけではない。複数の有力メディアが独自情報筋の証言を報じており、国際的な注目を集めている。中東専門メディア「The Media Line」およびエルサレム・ポストは、テヘランの内情に詳しい情報筋の言葉を引用し、「声明はIRGC(イラン革命防衛隊)が起草し、その後モジュタバーの文体に書き直されたものだ」と報道。声明を発表した国営通信社の原文には誤字が複数存在しており、「きちんと校正した者が誰もいなかった。これはイスラム体制内部の混乱を示している」と分析されている。キエフ・ポストに語ったイラン専門家ナヒディ氏は「この声明はIRGCか他の指導部が書いた可能性が高い。本人が話すのを見るまでは信じない」と明言した。

声明の内容自体も不審な点を含む。モジュタバーは自身の就任について「私も国民の皆さんと同時に、国営放送で知った」と記述した——つまり自分が最高指導者に選ばれることを事前に知らされていなかったと読める、きわめて異例の表現だ。本来、後継者指名は「専門家会議(アセンブリー・オブ・エキスパーツ)」の協議と3分の2以上の承認が必要なプロセスであり、選ばれる当人が事前に関与しないはずがない。

健康状態については、IRGC系ファールス通信が「新最高指導者はジャンバーズ(手足を失うほどの重傷を指すイラン特有の用語)となった」と報じており、父親を暗殺した空爆でモジュタバー自身も重傷を負ったという情報が複数の情報筋から流れている。「歩けないためカメラの前に立てない」という見立てもある。テヘラン市内の情報筋はThe Media Lineに対し、「多くの高官が本人と直接会えていない。テヘラン郊外の地下施設で治療を受けている」と述べた。

CNNのイランアナリスト、アラシュ・アジジ氏は「声明は父親の路線を一切変えないという内容で、イランの国民に対して未来への希望をほとんど与えない。脅しと強がりに満ちており、お決まりのレトリックだ」と評した。アルジャジーラの中東アナリスト、ゼイドン・アルキナニ氏は「武装抵抗路線に徹することで、経済改革や国家建設、国民が本当に必要としている根本的な問題の議論を回避できる」と指摘する。

なお声明は、イラン国内で公式に「禁止」されているInstagram・X(旧Twitter)・Telegramへのフォローを呼びかける形で配信されており、この矛盾も国内外で話題となっている。また、IRGCに近いメディアがAI生成画像でモジュタバーの姿を作成し広めているという報告もあり、「指導者の不在」を巡る情報戦が加速している。

⚠ 注意

モジュタバー師の「初声明」は、IRGCによる実効支配を示す可能性がある。「最高指導者が統治している」という前提でホルムズ封鎖の終結シナリオを描くことは、現時点では非常に危険だ。イランの意思決定主体が誰なのかが依然不明であり、交渉のカウンターパートが不在のまま事態が進んでいる可能性がある。

💼 経営インパクト

「IRGC主導のイラン」という構造が固まれば、停戦交渉の窓口が事実上存在しない状態が続く。「新指導者が就任すれば交渉が動く」という楽観シナリオは後退し、ホルムズ封鎖の長期化リスクを織り込んだ経営計画が不可欠となった。

3. カーグ島攻撃と「石油インフラ」をめぐるチキンゲーム

「声明」公表直後、WTIは一時98ドル台まで上昇し再び100ドルに迫り、ドル円も一時159円台後半と約1年8ヶ月ぶりの円安水準をつけ、日経平均は一時1,100円超下落した。「IRGC主導であれ何であれ、強硬路線が確認された」と市場は読んだ格好だ。

3月13日(日本時間14日)、トランプ大統領はイランの主要な原油積み出し拠点であるカーグ島の軍事目標を攻撃し、「完全に破壊した」とSNSで発表した。同時に「石油インフラは破壊しなかった」と強調し、あくまでも軍事施設への限定攻撃であることを示した。ただし「イランがホルムズ海峡での船舶航行妨害を続ければ、石油インフラへの攻撃も排除しない」と明言しており、原油生産能力そのものへの直接攻撃という「最終手段」を交渉カードとして提示した形だ。

カーグ島はイランの石油輸出の大部分を担う要衝であり、ここが攻撃を受けたこと自体、紛争が新たなフェーズに入ったことを示している。原油価格が100ドルをうかがう中でこの「石油インフラへの警告」が発せられたことで、市場は「双方が全面戦争に踏み込むリスク」を織り込み始めている。

💼 経営インパクト

イランの石油インフラが攻撃された場合、原油価格は200ドル超のシナリオが現実味を帯びる。エネルギーコストの上限が見えない状況での経営計画は成り立たない。「最悪シナリオ」での損益計算を今すぐ行うべきタイミング。

4. デジタルインフラへの攻撃警告——新次元の経営リスク

イラン革命防衛隊は13日、グーグルやNVIDIAをはじめとするアメリカのテック大手7社の、イスラエル・UAE(アラブ首長国連邦)・カタールなど周辺国に設置されたクラウドコンピューティング施設やデータセンター29拠点を攻撃対象リストとして公開した。これらはAI処理や企業のクラウドインフラを担う施設であり、攻撃を受けた場合には「AIやクラウドサービスが停止し、各国の情報インフラと経済活動が止まる」恐れがある。また、衛星テレビ局アルジャジーラは、革命防衛隊がアメリカ・イスラエルと関連した銀行への攻撃も警告していると報じており、金融機関も標的となりうる状況だ。

💼 経営インパクト

AWSやGoogleクラウドなど中東データセンターを使用している企業は、冗長化・バックアップ体制を即時確認することが急務。SaaS・クラウドサービスの調達先が中東拠点に依存している場合は代替手段の準備が必要。金融機関との取引で中東経由の決済・送金ルートを利用している場合も要注意。

5. ガザ停戦の空洞化——イラン戦争の陰で

2025年10月10日に成立したガザ停戦は、今週、実質的に機能不全に陥った。イスラエルはイランへの攻撃開始直後にガザのすべての越境地点を封鎖し、人道支援物資の搬入を停止。ラマダン(断食月)中のガザでは食料価格が急騰し、住民が市場に殺到する映像が世界に流れた。トランプ大統領が3週間前に主催した「平和委員会(Board of Peace)」での数十億ドルの復興支援誓約も、今やイラン戦争の影に埋もれている。ハマスの武装解除やイスラエル軍の撤退など、次のステップに向けた協議はすべて停止状態だ。米国の注目がイランに向いた今、ガザの170万人の市民は再び「放置される恐怖」に直面している。

💼 経営インパクト

ガザ復興ビジネスを視野に入れていた企業は計画の大幅な見直しを迫られる。中東全域での事業継続計画(BCP)の再確認が必要。

6. ホルムズ海峡封鎖——世界の原油動脈が止まる

世界の原油輸送の約20%、LNGの約25%が通過するホルムズ海峡は今週も事実上の封鎖状態が続いた。3月11日だけで少なくとも5隻が攻撃を受け、商船三井が所有する日本船籍のコンテナ船も標的となった。オマーン南部のサラーラ港——ホルムズを迂回できる数少ない代替ルート——でも燃料タンクが炎上。イランの革命防衛隊は「アメリカとイスラエルを支援する国の石油は1リットルたりとも通過させない。原油は1バレル200ドルを超えると覚悟しろ」と声明を出した。

IEA(国際エネルギー機関)は11日、加盟32カ国が過去最大規模となる4億バレルの石油備蓄協調放出で全会一致で合意したと発表。しかし4億バレルはホルムズ海峡からの20日分の供給量に過ぎず、WTIは一時下落した後に再上昇し95ドル台に。北海ブレントは一時100ドルを突破した。2021年にバイデン政権が実施した2億6,000万バレル放出のときも、ロシアのウクライナ侵攻という地政学的不安定が重なり価格を抑えられなかった——今回も同じ構図が繰り返されている。「ホルムズ海峡の安全が確保されない限り、備蓄放出だけでは価格を抑制できない」というのが市場の共通認識だ。

💼 経営インパクト

製造業・物流・農業・食品など、エネルギーと原材料コストに敏感なすべての業種に直撃。長期契約や為替予約など、リスクヘッジ手段の再検討が急務。日本の原油輸入の約9割は中東依存であり、代替ルート・代替調達先の確保が戦略的課題に浮上。

7. トランプ対ネタニヤフ——出口戦略をめぐる亀裂

アメリカとイスラエルの間で、戦争終結をめぐる温度差が広がっている。イランへの攻撃支持率はイスラエル国民で85%に対し、アメリカでは40%にとどまっており、トランプ大統領はガソリン価格の上昇に神経をとがらせている。ワシントンのガソリンスタンドでは1ガロンあたり3.79ドルと、攻撃前から約20%上昇した。トランプ氏はアクシオスの取材に「攻撃目標は実質的に残っていない。終わらせたいと思えばいつでも終わる」と述べる一方、軍事作戦継続の意向も表明した。ブルームバーグ通信は、イランが仲介国を通じて「アメリカとイスラエルが将来イランを攻撃しないことの保証」を停戦条件として提示していると報じており、出口の芽は生まれ始めている。

しかし3月12日、米軍の誤爆がイランの小学校を直撃し、子ども168人が死亡したとされる。この事件は国際社会からの非難を呼び、スペインのサンチェス首相をはじめ複数の首脳が国連憲章違反の可能性を指摘。ネタニヤフ政権はなおも継戦を主張しており、米・イスラエル間の協調がどこまで維持できるかが今後の最大の焦点となっている。

ポイント:イランの新最高指導者(モジュタバー・ハーメネイー)は「ホルムズ封鎖継続」と「将来の不攻撃保証」を停戦条件として提示。トランプ政権内での早期終結論と、ネタニヤフ政権の継戦論の綱引きが、今後の原油価格とエネルギーコストを左右する。

ウクライナ・ロシア情勢

和平協議の宙吊りと「逆説的な恩恵」

2月17〜18日のジュネーブ協議(第3回米・ウ・露三者会談)で次回協議がアブダビで予定されていたが、中東情勢の激化によって宙吊り状態となった。ゼレンスキー大統領は3月5日、「中東の戦争のため、次回協議は当面延期される可能性がある」と述べ、トルコやスイスなど代替開催地への柔軟性を示した。ロシア側もクレムリンが「アブダビでの協議は疑問符がついた」と認めている。

戦線ではロシアが3月9〜10日に450機以上のドローンとミサイルでウクライナ12地域を攻撃。プーチン大統領は「ドネツク州の85%を掌握」と主張し、「現在ロシア軍はかなり順調に前進している」とトランプ大統領に伝達した。ウクライナ側は反論し、南東部のドニプロ地方での奪還を発表している。

今週最も注目すべきは、アメリカ財務省が3月12日に発表した「ロシア産原油30日間購入容認」の措置だ。ウクライナ侵攻を理由とする対ロシア制裁を一時的に緩和し、現在海上で輸送中のロシア産原油(約1億2,400万バレル——世界の1日消費量とほぼ同量)の購入を各国に認めるというものだ。「ホルムズ封鎖で逼迫したエネルギー市場を緩和する」名目だが、原油市場の専門家は「インパクトは限定的」と見ており、ゼレンスキー陣営からは「いかなる理由であれ、制裁緩和は間違っている」と即座に反発の声が上がった。ベッセント財務長官は「ロシア政府に大きな財政的利益を与えない」と説明したが、専門家は「原油価格上昇局面でのロシアの収入増はポジティブ要因。さらに緩和を求める外交カードにもなりうる」と指摘する。

構造的に見て最も重要なのは、ホルムズ海峡封鎖がロシアに「逆説的な恩恵」をもたらしているという点だ。中東産原油が市場から消えることでロシア産石油の価値が上昇し、制裁下でも収入が増える。停戦交渉への外圧が弱まるという意味で、ロシアはイランの長期戦を「望んでいる」側に立っている可能性がある。

💼 経営インパクト

ロシア産原油の一時購入容認は「緊急避難的措置」にすぎず、対ロシア制裁の枠組みそのものへの影響は限定的。ただし、ロシアが制裁緩和を外交カードとして利用し、ウクライナ和平交渉を有利に誘導しようとする動きには注視が必要。ウクライナ復興ビジネスや欧州エネルギー供給の安定化を前提とした計画は、少なくとも今夏まで見通しが立たない状況が続く。

東南アジア情勢

LNG依存が直撃——エネルギー安全保障の再設計迫られる各国

東南アジア諸国がホルムズ封鎖の直撃を受けている。最大の打撃を受けているのはLNG依存度が高いシンガポールとタイで、両国ともカタール・エナジー(カタール国営石油会社)との長期供給契約が全体の40%超を占めている。カタール・エナジーは不可抗力(フォースマジュール)を宣言し、供給停止を通告している状況だ。

フィリピンは石油備蓄が50〜60日分と推定される中、週4日制勤務・エネルギー消費20%削減を企業に義務付ける緊急令を発動した。マレーシアでは企業の64%がすでに輸送遅延・保険料急騰・原材料高騰の影響を受けていると回答。カンボジアでは小売燃料価格が急騰し、衣料品や農業セクターへの打撃が深刻化。ベトナムはエネルギー市場監視のタスクフォースを設置し、対応を急いでいる。

インドネシアにとっては皮肉な状況も生まれている。直近でアメリカ産化石燃料の輸入拡大に合意したばかりのタイミングで、輸送コストと保険料の急騰によって調達コストが想定外に跳ね上がっているためだ。「脱中東エネルギー依存」の必要性が叫ばれてきたが、代替ルートの整備が追いつかないまま危機が到来した格好だ。

💼 経営インパクト

東南アジアに製造拠点や販売網を持つ日系企業は、現地のエネルギーコスト・物流コストの急上昇に要警戒。特にタイ・シンガポール拠点では電力調達と輸送コストの見直しが緊急課題となる。

朝鮮半島・東アジア情勢

米韓演習の裏で静かに進む「北朝鮮の近代化」

3月9〜19日、米韓合同軍事演習「フリーダムシールド」(22回の野外訓練)が実施中だ。これと時を同じくして、韓国のKOSPI(総合株価指数)は過去最大級とも言える週間下落率を記録——一時は12%の急落となり、その後部分的に回復した。エネルギーコスト上昇とグローバルリスク回避の売りが重なった形だ。

外交面では李在明(イ・ジェミョン)大統領が3月1日の三・一独立運動記念式典で「北朝鮮の体制を尊重し、吸収統一は追求しない」と宣言。対北融和路線の明確化と日本との「シャトル外交」継続を打ち出した。一方、北朝鮮は沈黙を保っており、金正恩(キム・ジョンウン)はAI・電子戦・対衛星兵器の軍近代化を加速させていると分析されている。アメリカのコルビー国防次官補が韓国訪問時に「中国抑止」を強調した際、従来の核の傘の確認を省略したことが、北朝鮮に挑発の口実を与える可能性として懸念されている。

ポイント:アメリカの軍事・外交資産がイランに集中する今が、北朝鮮にとって「挑発の好機」になりうる。ロシアへの派兵・武器供与で戦場の経験を積んだ北朝鮮軍は、その知見をドローン・AI兵器の近代化に反映させており、朝鮮半島リスクの質的な変化に注目が必要だ。

米中関係・インド太平洋

中国の「戦略的曖昧性」とレアアース禁輸の衝撃

今週の米中関係で最も経営に直結するのは、中国によるレアアース(軍事用途向け)の輸出禁止措置だ。これはアメリカ軍のミサイルや戦闘機の補充に直接影響し、対中サプライチェーンへの依存リスクを改めて浮き彫りにした。中国はイランへの攻撃を「即時停戦を求める」と批判しながらも、直接介入は避け、4月予定の習近平(シー・ジンピン)・トランプ首脳会談を優先する姿勢を崩していない。

王毅(ワン・イー)外相は3月8日の全人代記者会見で「即時停戦」を求め、中国特使・翟峻の中東派遣を表明。「中国の仲介役」としての存在感を高めようとしている。その一方で、中国はイラン産原油の約13%を輸入しているが、ホルムズ封鎖によってロシア産石油への依存を深める可能性が高まっている。

通商面では、米通商代表部(USTR)が3月11日にSection 301関税調査を発動した。日本・中国・EU・韓国・台湾など17カ国・地域が対象となっており、過剰生産能力を問題視する内容だ。最高裁がIEEPA関税の合法性に疑義を示したことを受け、トランプ政権は別の通商手段を模索しており、Section 301はその「次の一手」とみられている。

💼 経営インパクト

レアアース・鉱物資源の調達を中国に依存している製造業(半導体・EV・防衛関連)にとって、供給途絶リスクが現実化。Section 301調査は日本の鉄鋼・自動車・電子部品産業への新たな関税リスクにつながりうる。調達先の多元化と国内回帰の加速が戦略的課題となる。

今週の注目トピック

ホルムズ封鎖と日本への影響——ガソリン・石炭・電気・肥料の「四重苦」と悪循環

日本は今週、ホルムズ海峡封鎖の影響を国内市場で直接的に体感した。3月12日、石油元売り各社が卸売価格を1リットルあたり平均26円引き上げたことを受け、各地のガソリンスタンドで価格が急騰。栃木県小山市のあるスタンドでは、朝7時に157円だったレギュラーガソリンが、わずか1日で189円まで跳ね上がった。その差、実に32円——過去に例のない急騰幅だ。

政府は緊急対応に乗り出しており、高市早苗首相は衆議院予算委員会でガソリン価格の上限を170円、軽油は158円、重油は105円と設定し、超過分への補助金支給を表明した。昨年終了した補助金制度を3月19日に再開するほか、既存の基金から当面2,800億円で対応するとし、今年度予備費の活用も否定しないとした。しかし国際エネルギー機関が決めた協調備蓄放出と同様、「供給安定の見通しなき補助金」では価格上昇の根本的な解決には程遠い。

ガソリンだけではない。日本の電力供給の約7割を担う火力発電のうち、約4割が燃料として使う石炭にも波紋が広がっている。ホルムズ海峡から遠いオーストラリアやインドネシア産の石炭は代替需要の受け皿として注目を集め、オーストラリア産石炭の先物価格は戦闘開始以降急上昇し、2014年12月以来の高値をつけた。JERAの担当者は「中東・LNGが手配できなくなった分、石炭で代替するとの期待が石炭価格を押し上げている」と分析する。東京電力はこの燃料高騰が続いた場合、企業向けの4月使用分の電気料金を値上げする可能性があると説明しており、家庭向けでは夏頃から影響が出始める見通しだ。

為替市場では、円安の悪循環が加速している。「原油高→日本の輸入コスト増→円売りドル買い→円安→さらに輸入物価上昇→さらなる円売り」という構造だ。ドル円は13日に一時159円台後半と約1年8ヶ月ぶりの円安水準をつけた。チャート分析では163円程度まで進んでもおかしくない形を示していたが、1月23日の日米協調レートチェックへの警戒感が160円手前でかろうじて歯止めをかけている状態だ。

より長期的な視点で重要なのは、日本の鉱物性燃料(原油・LNG等)の年間輸入額が、2022年(ウクライナ侵攻と急激な円安が重なった年)の水準を超えてきているという点だ。現在の原油価格と円安水準が続けば、2026年の鉱物性燃料輸入額は2022年並み——あるいはそれを超える——水準に達し、日本が再び大幅な貿易赤字を計上するリスクが浮上している。エネルギーコストの増大はAIや半導体といった成長産業にも重くのしかかる構造であり、国際競争力への影響も無視できない。

見落とされがちな影響として、農業部門への波及が深刻化している。肥料の原料として使われる尿素は、その約4割が中東産だ。イラン情勢の悪化を受けて3月に入り、尿素価格は前月比50%以上も上昇した。農産物価格への波及は時間の問題とみられる。

3月19日には日米首脳会談が予定されており、高市首相が戦闘の早期終結をトランプ大統領に求めるか否かが注目されている。一方でアメリカは同盟国に安保・経済面での貢献を求める姿勢を崩しておらず、「ホルムズ海峡への自衛隊派遣要求」の可能性も排除できない状況だ。高市首相は国会答弁で「機雷掃海の事前準備としての自衛隊派遣は想定できない」と述べているが、会談での要求内容が注目される。

日本企業へのチェックリスト(今週の状況を踏まえて)

  • エネルギーコストの上振れシナリオ(原油100〜200ドル)で採算を再計算しているか
  • ホルムズ海峡経由の輸入原材料の代替ルート・代替調達先を確認しているか
  • 円安シナリオ(160〜163円)での為替ヘッジ状況を確認しているか
  • 電力調達コストの想定を見直しているか(企業向け4月値上げリスク)
  • 農業・食品関連:肥料・原材料の在庫と契約価格の再確認は済んでいるか
  • AWSやGoogleクラウドの中東データセンター依存度を確認しているか
  • 中東経由の決済・送金ルートのバックアップはあるか
  • 日米首脳会談後の政策変化(補助金・エネルギー規制・安保貢献)を注視しているか

来週の注目ポイント

来週の重要イベント

日付 イベント 注目ポイント
3月19日(木) 日米首脳会談(ワシントン) 高市首相の対トランプ要求と、アメリカからの安保・経済貢献要求の内容。自衛隊のホルムズ派遣論への対応
3月19日(木) 米韓合同演習「フリーダムシールド」終了 演習終了後の北朝鮮の反応。挑発行動があるか否か
来週中 モジュタバー師の動静 本人が映像で姿を見せるか否か。「IRGC実効支配」説が続くかどうか。イランの意思決定主体が誰かが明確になるか
新最高指導者が提示した停戦条件に対するアメリカとイスラエルの回答。交渉が具体化するかどうか
来週中 イラン停戦交渉の動向 新最高指導者が提示した停戦条件に対するアメリカとイスラエルの回答。交渉が具体化するかどうか
ブレント100ドル定着かどうか。ドル円160円突破の場合、日米協調介入があるか
来週中 Section 301調査の詳細発表 日本向け追加関税の品目と税率。鉄鋼・自動車・電子部品への影響

来週の注目シナリオ

シナリオ 内容 市場・経営への影響
楽観シナリオ 日米首脳会談でトランプが停戦に向けた具体的な動き。イランとの非公式交渉が進展 原油価格が80〜85ドル台に急落。ドル円150〜153円に戻り、日経平均反発
基本シナリオ イラン戦争は長期化。断続的な停戦交渉が続くが、ホルムズ封鎖は当面継続 原油85〜100ドルのレンジ内で高止まり。ドル円155〜162円で推移。エネルギーコスト高止まり
悲観シナリオ 中国が中東に介入、または北朝鮮が挑発行動。誤爆問題でアメリカの国際的孤立が深まる 原油100ドル超が定着し200ドルシナリオが市場で現実感を持つ。世界的なスタグフレーション懸念が台頭

参考情報源

本レポートは以下の情報源をもとに作成しました。WBS(テレビ東京)2026年3月12〜13日放送 / 日経ニュースNEXT 2026年3月12〜13日放送 / 毎日新聞 2026年3月14日 / Reuters / AP通信 / BBC / Bloomberg / NPR / PBS News / Al Jazeera / Euronews / New Eastern Europe / The Diplomat / American Enterprise Institute(AEI)& Institute for the Study of War(ISW)/ UN Press Releases / IEA(国際エネルギー機関)/ 日本経済新聞 / NHK

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